津地方裁判所四日市支部 昭和46年(ワ)25号 判決 1974年11月18日
主文
一 被告四日市クレーン有限会社は、原告窪田絹代に対し金二四一万六、五六四円、原告窪田定幸に対し金六八五万三、一二八円及び右各金員に対する昭和四六年一月一二日以降完済まで年五分の割合による各金員の支払をせよ。
二 原告窪田絹代の被告和田建材有限会社に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告らと被告四日市クレーン有限会社との間においては全部同被告の負担とし、原告窪田絹代と被告和田建材有限会社との間においては全部同原告の負担とする。
四 この判決は、原告らの勝訴部分に限り仮りに執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告和田建材有限会社は、原告窪田絹代に対し金二四一万六、五六四円及びこれに対する昭和四六年一月一二日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告四日市クレーン有限会社は、原告窪田絹代に対し金二四一万六、五六四円及びこれに対する昭和四六年一月一二日以降完済まで年五分の割合による金員を、同窪田定幸に対し金六八五万三、一二八円及びこれに対する右同日以降完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
亡窪田定夫は、昭和四六年一月一二日午後三時三〇分頃から三重県桑名郡多度町力尾地内の県道四日市~多度線で、道路下の田に転落した貨物自動車(以下本件転落車という)の引揚げ作業に従事中、同日午後五時頃、同作業のため被告四日市クレーン有限会社(以下四日市クレーンという)から派遣されて右現場に来ていた、同社従業員大芝正則の運転するクレーン車(以下本件クレーン車という)のブームから吊り下げられたワイヤーの先端に取り付けられたフツクを、右転落車に巻きつけたワイヤーに引掛ける作業をしていたところ、右ワイヤーが現場の上方に架設されていた高圧(三、〇〇〇ボルト)電線にふれたため、感電死するに至つた。
2 責任原因
被告らは、それぞれ次の理由により、右感電事故(以下本件事故という)により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(一) 被告和田建材有限会社(以下和田建材という)は、前記転落車の所有者であるところ、被告和田建材においては、本件現場のようにその上方に高圧送電線が架設されている場所でクレーン車を操作させて転落車の引揚げ作業を行う場合には、現場に看視者を置くなどして作業の安全を確保し、右高圧電線による感電事故を防止すべき注意義務があるにもかかわらず、右看視者の配置を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条による責任。
(二) 被告四日市クレーンは、(1)本件クレーン車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであり、本件事故は右クレーン車の「運行」によつて生じたものであるから、自賠法三条による責任、及び、(2)前記大芝を使用し、同人をして同被告の業務の執行につき本件クレーン車を運転操作させていたところ、右大芝は、本件現場で右クレーン車を操作するにあたつては、上方に架設されている高圧電線にブームやワイヤーなどが接触しないよう注意し、あるいは右電線に覆いをするなどして感電事故を防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、不用意にクレーン車を操作して、そのブームから吊り下げたワイヤーを裸の高圧電線に触れさせた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項による責任。
3 損害
(一) 亡窪田定夫の逸失利益
亡定夫は本件事故当時二三歳(昭和二二年八月二八日生)の健康な男子で、被告和田建材に建設機械のオペレーターとして勤務し、一か月平均金九万八、〇〇〇円の収入を得ていたが、同人は本件事故がなかつたならば、その後少なくとも三九年間は稼働することができ、その間右収入額を下らない収入を挙げ得たと考えられるから、その間の同人の生活費を右収入額の五〇パーセントとみてこれを控除したうえ、右期間中の同人の本件事故による純逸失利益の総額をホフマン式計算法(年別複式)により右事故時の現価に換算すると次式のとおり金一、二五二万九、六九二円となる。
98,000円×1/2×12×21,309(39年のホフマン係数)=12,529,692円
(二) 相続
原告絹代と同定幸は、亡定夫のそれぞれ妻と子でその相続人の全部であるところ、原告らは、亡定夫の右逸失利益の賠償請求権を各法定相続分に応じて相続した。すなわち、その額は次のとおりとなる。
原告絹代分(三分の一)金四一七万六、五六四円
同定幸分(三分の二)金八三五万三、一二八円
(三) 原告らの慰謝料
本件事故により原告絹代は最愛の夫を、原告定幸は父を失い、それぞれその精神的苦痛は大きく、これを慰謝すべき額は、原告絹代について金二〇〇万〇、〇〇〇円、原告定幸について金一〇〇万〇、〇〇〇円が相当である。
(四) 損害の填補
原告らは既に、本件クレーン車の自賠責保険からそれぞれ金二五〇万〇、〇〇〇円ずつの支払いを受け、原告絹代はさらに亡定夫の労災保険から遺族補償給付金一二六万〇、〇〇〇円を受領したので、これらの金額を前記原告各自の損害合計金から差引くと、その残額はそれぞれ次のとおりとなる。
原告絹代分(6,176,564円-3,760,000円)
金二四一万六、五六四円
同定幸分(9,353,128円-2,500,000円)
金六八五万三、一二八円
4 結論
よつて、原告らは被告四日市クレーンに対し右原告らの各損害金と、原告絹代は被告和田建材に対し右同原告の損害金と、これらに対するいずれも本件事故発生の日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金とをそれぞれ支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
(被告和田建材)
1 請求原因1の事実(本件事故の発生)は認める。
2 同2の(一)の事実(被告和田建材の責任原因)は否認する。
3 同3の事実(損害)のうち、亡窪田定夫が昭和二二年八月二八日生れであること、及び原告絹代が同人の労災保険から遺族補償給付金一二六万〇、〇〇〇円の支給を受けたことは認め、その余は不知。
(被告四日市クレーン)
1 請求原因1の事実(本件事故の発生)は認める。
2 同2の(二)の(1)(2)の事実(被告四日市クレーンの責任原因)はいずれも否認する。
本件事故は、亡窪田定夫が、本件クレーン車のブームから吊り下げられたワイヤー先端のフツクを不用意に無理して引張つたため、右のワイヤーが動いて高圧電線に触れ、感電したもので、全く同人の単独の過失によつて生じたものである。
3 同3の事実のうち、亡窪田定夫が昭和二二年八月二二日生れであること、及び原告らが本件事故につき自賠責保険から合計金五〇〇万〇、〇〇〇円を、原告絹代が亡定夫の労災保険から遺族補償給付金一二六万〇、〇〇〇円の各支給を受けたことは認め、その余は不知。
三 抗弁
(被告和田建材)
1 過失相殺
仮りに被告和田建材に本件事故による損害賠償義務が認められるとしても、本件事故当時亡窪田定夫は、本件現場の上空に高圧電線が架設されていることは判つていた筈であるから、自ら感電事故の防止に細心の注意を払うべきところ、同人は、本件クレーン車のブームから吊り下げられたワイヤー先端のフツクを不用意にも無理に引張つたため右のワイヤーが高圧電線に触れ、感電死したものであるから、本件事故の発生について同人には八〇パーセントの割合を下らない重大な過失がある。
2 労災保険給付
原告絹代は、亡定夫の労災保険から前記自陳する遺族補償給付金一二六万〇、〇〇〇円の他葬祭料として金一五万四、五〇〇円の給付を受けており、右給付金は同原告の損害に填補されるべきである。
(被告四日市クレーン)
1 免責
本件事故は、前記のとおり亡窪田定夫の一方的過失により発生したものである。
2 示談の成立
本件事故による損害賠償については、当初被告四日市クレーンも被告和田建材と共同被告とされていた本件併合事件である昭和四六年(ワ)第二五号事件の係属中、その前任担当裁判官から当時の同被告会社取締役加藤富士男に、本件事故につき自賠責保険が給付されるようその手続についての協力依頼があり、同被告会社がこれに応じたことによつて原告らとの間に示談が成立し、よつて右別件は同被告に関して取下げられ、一切解決済みである。
3 労災保険給付
原告絹代は、亡窪田定夫の労災保険から前記自陳する遺族補償給付金一二六万〇、〇〇〇円の他葬祭料として金一五万四、五〇〇円の給付を受けており、右給付金は同原告の損害に填補されるべきである。
四 抗弁に対する認否
1 被告和田建材の抗弁1の事実は争う。
2 同2の事実(労災保険給付)は認める。
3 被告四日市クレーンの抗弁1、2の事実は否認する。
原告絹代が被告主張の別件を取上げたのは、同事件で共同被告として表示していた大建商事有限会社に対する訴であつて、その理由は、同事件において、右被告会社から同社、被告四日市クレーンとは別会社であつて本件事故につき何らの関係もない旨の答弁がなされたため、同原告において被告会社名の表示を四日市クレーン有限会社と改めるため、その手続方法として右別件を取下げ、本件(昭和四八年(ワ)第五四号事件)を提起したものである。右別件においては、大建商事有限会社と被告四日市クレーンとの無関係を主張し、本件においてはその実質的な同一性を主張する如き同被告の応訴態度は、その主張自体著しく矛盾し、信義則に反する。
4 同3の事実(労災保険給付)は認める。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 被告和田建材の責任原因
1 右争いのない事実に、成立に争いのない、甲第一ないし第四号証及び丙第一、第四ないし第九号証、並びに証人宮本利雄の証言により真正に成立したものと認められる丙第二号証と、証人大芝正則、同長井真一、同宮本利雄の各証言を綜合すると、本件転落車の引揚げ作業は、被告和田建材の要請によつて、被告四日市クレーンがこれを請負い、同被告会社が派遣した本件クレーン車によつて行われたもので、右クレーン車の運転(操縦)及びその補助には、いずれも同被告会社の従業員である大芝正則と佐藤喜己の二人が同社から派遣されてこれに当つていたことが認められる。尤も前示争いのない事実と右の各証拠によれば本件現場には、被告和田建材の従業員で、本件転落車の運転手の増田照夫及びその同僚であつた亡窪田定夫と長井真一らも居合わせ、右引揚げ作業に従事していたことが認められるが、同人らは、同被告会社から右引揚作業に従事することを特に命ぜられて右現場に来たものであることを認めるに足る証拠はなく、却つて、同人らは、右増田にとつては自己の運転していた車の、その他の者にとつては同僚の車の引揚げ作業であることから、各自自主的に現場に来合わせて同作業を手伝つていたものと推認される。
2 以上の事実関係における限りでは、本件転落車引揚げ作業のための本件クレーン車の運転、操縦について、被告和田建材が原告主張の如き看視者の配置その他の保安措置を講ずべき責任主体であつたと認めることはできず、したがつて、仮りに右看視者がいなかつたために本件事故が発生したとしても、直ちにその過失責任を同被告に帰属させることはできなく、また他に同被告が本件事故につき損害賠償義務を負うべき事実の主張立証もない。
3 してみれば、原告絹代の同被告に対する本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がなく失当といわねばならない。
三 被告四日市クレーンの責任原因
前記争いのない事実と前掲各証拠に弁論の全趣旨を併せると、被告四日市クレーンは、本件クレーン車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであること、右クレーン車は、油圧式一五トンクレーンを貨物自動車の運転席後部に固定し、クレーン操作のための動力源は右自動車のエンジンから直結して得られる仕組で、走行機能を営む自動車の本体部分と荷揚げ等の機能を営むクレーンの機械部分とが一体となつた構造を有している特殊自動車であること、本件感電事故は、右クレーン車の車体を現場道路に停止させ、右自動車のエンジンを駆動してこれにより特殊自動車としての右クレーン車のその固有の装置をその目的に従つて操作して、右クレーンにより本件転落車を引揚げ作業中、右クレーンの操縦者大芝正則がクレーンのブームを廻転させた際、現場上空に架設されていた裸の高圧電線にブームから吊り下げられたワイヤーが接触して発生したものであること、以上の事実が認められる。
ところで、自賠法にいわゆる自動車の「運行」とは、定義規定たる同法二条二項によれば、自動車を「当該装置の用い方に従い用いることをいう」とされているが、右の趣旨は、自動車がエンジンその他の動力等により「位置の移動」を伴う「走行」状態にある場合のみならず、右本件クレーン車の場合のように、自動車が一般交通の場たる道路上に一時停止して、特殊自動車たる右クレーン車のその固有の装置をその目的に従つて操作し、クレーンを操縦している場合をもその「運行」の概念に含ましめるものと解するのが、自動車による特殊の危険から被害者を保護せんとする同法の立法目的に即応するものと解する。
さすれば、本件事故は本件クレーン車の「運行」中に生じたものであるから、同被告は(原告主張のその余の責任原因につき判断するまでもなく)同法三条により、本件事故につき被害者に生じた損害を賠償する責任がある。
四 過失相殺
1 前示認定の本件事故発生状況によれば、本件事故は本件クレーン車の操縦者である前記大芝正則のクレーン操縦上の不注意に基づくことは極めて明らかである(よつて被告四日市クレーンの免責の抗弁は到底採用し得ない)が、他方被害者たる亡窪田定夫についても、前示のとおり本件クレーン車のブームから吊り下げられたワイヤー先端のフツクを持つて操作するに当り、当然右ワイヤーが現場上空に架設されている高圧電線に接近していることに気付き得た筈であるから、若し入念な注意を尽すならば、右クレーン車の操縦者と緊密な連絡を保ち、その注意を促すなどして右高圧電線による感電の危険を防止するため、ブームの位置の変更を助言しあるいはその他の方法によつて右の危険防止措置を講じてからフツクに手をかけるべきであつたにかかわらず、右の注意を十分に尽さないで、フツクを持つて操作しようとした過失が認められる(尤も被告四日市クレーンが主張する如く、右ワイヤーと高圧電線との接触は、亡定夫が無理にフツクを引張つたために生じたと認めるべき証拠はなく、むしろ、前掲各証拠によれば、事故発生直前における右クレーンのブームの先端の位置は右高圧電線の上方約三メートルの高さにあり、右ブームの先端から吊り下げられたワイヤーの長さは約八メートルにあつて、右ワイヤーと右高圧電線との最少間隔は約二〇センチメートル程度しかなく、そのワイヤーの先端にかなりの重量のフツクが取りつけられていたことが認められるから、右の状態からすれば、亡定夫が右のフツクに手をかけなかつたとしても、ブームの振動その他によりワイヤーが揺れて高圧電線に接触した可能性は十分に窺われる)。
そこで本件事故における亡定夫の右過失を斟酌すると、被告四日市クレーンは原告らに対し相当の損害金のうち少なくとも八〇パーセントに当る金員を賠償すべきものと判断される。
五 被告四日市クレーンの抗弁2の主張について
被告四日市クレーンが抗弁2において主張する示談成立の事実(同被告の答弁書並びに昭和四九年三月二〇日付、同年五月三〇日付各準備書面中右抗弁事実に関する主張は、その趣旨必ずしも分明でないが、これを推測すれば右抗弁2に摘示の如き事実主張をなすものと解される)は、証人加藤富士男の証言によるも認めることができず、他にこれを認め得る証拠もない。よつて右抗弁は採用の限りでない。
六 損害
1 亡窪田定夫の逸失利益
本件事故時亡窪田定夫が二三歳(昭和二二年八月二八日生)であつたことは当事者間に争いなく、右事実に、成立に争いのない甲第七号証の一ないし六と、原告絹代本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を併せると、次の事実が認められる。
即ち、同人は本件事故時健康な男性で、被告和田建材に勤務し一か月平均少なくとも原告主張額の金九万八、〇〇〇円を下らない給与収入を得ていたが、そこから同人の生活費として三分の一を差引いたものを純収益として、若し同人が本件事故がなかつたならばその後少なくとも六三歳までの四〇年間は稼働してその間右同額を下らない平均純収益を挙げ得たと推認することができる。そこで、ホフマン方式(年別複式)により年五分の割合による中間利息を控除して、右期間中の純収益累計額の本件事故時における現価総額を求めると、次式のとおり金一、六九六万七、三二八円となる。
98,000円×2/3×12×21.642(40年のホフマン係数)=16,967,328円
右は亡定夫の本件事故による逸失利益と認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない(なお、原告らは亡定夫の逸失利益として右金額より低い額を主張しているが、後記過失相殺による最終認容額の算出に至るまでの過程の判断においては、裁判所は右原告らの主張に拘束されないものと考える。右は後記慰謝料の認定についても同様である。)。
2 相続
原告絹代本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告絹代と同定幸は、それぞれ亡定夫の妻と子(本件事故時妊娠八か月の胎児でその後出生)でその相続人の全部であること、したがつて原告らは、亡定夫の右逸失利益の賠償請求権をそれぞれその法定相続分に応じて相続したことが認められ、その額は次のとおりとなる。
原告絹代分(三分の一)金五六五万五、七七六円
同定幸分(三分の二)金一、一三一万一、五五二円
3 原告らの慰謝料
右原告らと亡定夫の身分関係その他諸般の事情を考慮し、原告らが本件事故により蒙つた精神的苦痛を慰謝すべき金額は、各自金二〇〇万〇、〇〇〇円ずつをもつて相当と考える。
4 労災保険給付金の損害填補
原告絹代が亡定夫の労災保険から遺族補償給付金一二六万〇、〇〇〇円の支給を受けたことは当事者間に争いがなく、右給付金は同原告の前記損害に充当すべきものであるところ、労災保険の給付金は、被災者の軽過失を考慮することなく支給されるものであるから、本件においては、右の充当は後記過失相殺による減額前の同原告の損害額に対し行うのを相当と解する(東京地裁昭和四七年三月八日判決、交通事故民事裁判例集五巻二号三三五頁参照)。右充当の結果同原告の差引損害額は次式のとおり金六三九万五、七七六円となる。
5,655,776円+2,000,000円-1,260,000円=6,395,776円
なお、同原告が右労災保険から葬祭料として別途金一五万四、五〇〇円の給付を受けていることも当事者間に争いがないが、同原告は本訴で亡定夫の葬儀費は請求していないので、右葬祭料については損益充当をしない。
5 過失相殺
前認定のとおり、亡定夫には本件事故の発生に寄与した過失が認められるので、前示割合に基づき原告らの以上の損害額につき過失相殺を行うと次のとおりとなる(円未満切捨)。
原告絹代分 金五一一万六、六二〇円
(6,393,776円×8/10≒5,116,620円)
同定幸分 金一、〇六四万九、二四一円
(13,311,552円×8/10≒10,649,241円)
6 自賠責保険給付金の損害填補
原告らが本件事故につき本件クレーン車の自賠責保険から合計金五〇〇万〇、〇〇〇円の支給を受けたことは当事者間に争いがない。そこで右給付金は、原告らの法定相続分に按分して、原告らの右5の各損害額に充当すべきところ、その結果原告らの差引損害額は次のとおりとなる(円未満の端数調整)。
原告絹代分 金三四四万九、九五三円
(5,116,620円-5,000,000円×1/3≒3,449,953円)
同定幸分 金七三一万五、九〇八円
(10,649,241円-5,000,000円×2/3≒7,315,908円)
七 結論
以上によれば原告らが被告四日市クレーンに対し請求し得べき損害額は、いずれも原告らの同被告に対する本訴請求金額を上廻るので、これを右本訴請求金額の範囲内において、これに対する本件事故発生の日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求と共に、正当として認容することとし、原告絹代の被告和田建材に対する請求は前示のとおりこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用し、よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 大西秀雄)